麻は、植物の「葉」や「茎」から繊維を採り出して糸にし、布に織ったものの総称です
使われる原料によって「リネン」「ラミー」「ヘンプ」の3種類に分けられます
そして原料の「亜麻」「苧麻」「大麻」は、科の異なる別の植物です
そのため繊維の太さも異なり、布に織った時の風合いも違います
麻の糸と布を作る方法
麻の糸は、植物の「茎」や「葉脈」から繊維を取り出して紡ぎます
原料の植物が違っても、植物から繊維を取り出して糸にする工程は、ほぼ同じです
- 刈り取った茎を細かく裂く
- 裂いた茎を1本ずつ撚って繋げる
- 湿り気を与えながら紡錘に巻き付けていく
- 乾燥させて撚りを安定させる
茎は、先端の方が細く、根元に近い部分ほど太くなっています
それをブラシなどを使って細かく裂いていきます
そして細かく裂くほど細い糸になり、柔らかな布に織ることができます
糸を撚り合わせて繋げた部分は、節になって太くなってしまいます
そのため1本の茎が長いほど撚る部分が少なく、節が減り、薄い生地にできます
ラミーの原料となる「苧麻(からむし)」の茎から糸を作る方法が本に紹介されていました
手軽に始められる編み物
機織りより簡単にできるのが編み物です
糸を織るには「機織り機」が必要ですが、編み物に必要なのは「編み針」だけ
そのため糸さえあれば手軽に始められ、道具が小さいので隙間時間に作業できます
形ができたら、剥ぎ合わせるだけで洋服が作れるので機織りより簡単です
福島県の昭和村では、カラムシ糸を編んで「帽子」を作っているといいます
製品化されて道の駅などで販売されますが、すぐ売り切れるほど人気の商品です
帽子を編むくらいの糸なら「畳1枚」くらいの畑で育てたカラムシで足りるといいます
それなら、コースター、ランチョンマット、ラグといったインテリア雑貨も作れそうです
あるいはリネンの柔らかな糸で、サマーセーターや靴下など衣類を編むことができます
麻の原料と種類の違い
リネンの原料「亜麻(フラックス)」は、東欧原産「アマ科」の植物です
ラミーの原料「苧麻(チョマ、カラムシ)」は、中近東原産「イラクサ科」の植物
ヘンプの原料「大麻(アサ、タイマ)」は、中央アジア原産「クワ科」の植物です
麻は丈夫で洗いやすく、乾きが早いため、寝具や布巾などにも使われます
さらに洗うほどに柔らかく丈夫になり、日に当てると漂白されて真っ白になるという特徴もあります
【ヘンプ(大麻、アサ、タイマ)】
麻薬取締法の対象である大麻と区別するため、麻とかアサと表記されるようになりました
現在では、品種改良された麻薬成分のないものだけが、専業農家で栽培されています
日本の本州以南には、クワ科の「大麻(タイマ)」が自生していました
そのため昔から様々な用途で使われてきた植物です
例えば、代表的なものとして、神社の「しめ縄」があります
そして布に織った物が「衣類」や「袋」として使われてもきました
例えば武士の裃に使われたように、パリッとした麻素材です
【ラミー(苧麻、チョマ、カラムシ)】
苧麻(ちょま)は、繊維植物として日本各地で栽培されてきました
地域によっては「からむし」とも呼ばれ、いくつかの品種があります
- 「麻袋」や「麻ひも」に使われる、太く丈夫な麻素材になる「ノカラムシ」
- 「高級着物」に使われるような、薄く柔らかな生地に織られる「アオカラムシ」
葉の裏側に毛が生えて白っぽく見えるのが「ノカラムシ(ナンバンカラムシ)」です
熱帯地方で育つため日本では沖縄にあります
ノカラムシの繊維で作った布はざっくりした風合いで、普段着の着物にも使われました
葉の裏側が緑色のものは「アオカラムシ」です
福島や新潟などで栽培されていたものが野生化しています
アオカラムシの繊維は細く節がないため、柔らかな布になり、高級な着物に使われました
苧麻は現在も、東北から沖縄までの地域で栽培されています
そして原料を購入して生地を生産しているのは、繊維産業が盛んな京都などの関西です
【リネン(亜麻・フラックス)】
リネンの原料である亜麻(フラックス)は、綺麗な花が咲く一年草で、「茎」から繊維を取ります
原産地は中東ですが、ヨーロッパで広まり、様々な用途に使われてきた植物です
例えば、油絵のキャンバスや、高級ホテルのテーブルクロスなど
英語でLinen(リネン)
フランス語では「Lin(リン)」
それがLingerie(ランジェリー)の語源です
昔は女性用ランジェリーに使われていました
ほっそりした亜麻(フラックス)の茎から採った繊維は細く、柔らかな布にできるからです
寝具にも多く使われるため「ベッドリネン」という言葉にもなっています
今では欧米でもリネンは高級品です
有名なのが「フレンチ・リネン」「ベルギー・リネン」「アイリッシュ・リネン」
アイリッシュ・リネンは、アイルランド系の移民が多いアメリカで再評価されて生産されました
最近では、リトアニアなど東欧で生産されたリネンが日本にも入ってきています
「Cadeau 屋 リネンのお店 かどや」さんで販売しているのが東欧産のリネン
お手頃価格で買えるので有難いショップです
生地に使っている糸の「番目」「密度」「重さ」が明記されている点でも信頼しています
庭で育てられる繊維植物
麻布の原料になる「亜麻」と、木綿の原料になる「綿花」は、どちらも庭で育てられる植物です
亜麻は花が綺麗なので、庭に植えて観賞用としても楽しめます
種まきに適した時期は「3~5月」と「9~10月」くらい
草丈が1mくらいになり、夏にブルーの花が咲きます
亜麻は湿度が低い気候でなければ育たないため、日本では北海道のみが適地です
そのため戦前は、北海道で亜麻を栽培していました
そして繊維製品を作っていたのが、帝国繊維(テイセン)という会社です
私が子供の頃、その繊維工場がテイセンボウルというボウリング場になっていました
昨今は「亜麻仁油」「リネンシード」といった食用に栽培されています
亜麻は寒さに強いですが、暑さや湿気には弱い植物です
綿花は草丈60~70cmで、6~11月に花が咲き、綿が採れます
暑さには強いですが、寒さに弱い植物です
北国なら亜麻、関東から南なら綿花が育てやすいはずです
花としても楽しめ、糸にして小物作りなども楽しめます
麻と綿の違い
化繊やコットンが広く使われるようになり、リネンが減った理由はいくつかあります
- 保温性ではコットンより劣る
- 化繊のほうが安価に作れる
- 亜麻の生産が冷涼な地域に限られる
- 時間と手間がかかる
- 技術を持った生産者が少なくなった
綿も麻も共に「吸湿性」には優れています
そのため水分や汗を吸い取るため、タオルや衣類に適した素材です
麻は、吸湿性があると共に「速乾性」にすぐれている点がコットンとは違います
なぜなら麻の繊維は空洞になっているため、非常に通気性が良いからです
早く乾くので、洗濯物が乾きにくい梅雨時には特に適しています
とはいえ繊維の長い「茎」や「葉脈」を使う麻はハリがあり、シワになりやすい素材です
その一方で、繊維の短い「綿花」を使う綿は柔らかく、シワになりにくい生地に織ることができます
綿は「保湿性」があり水分を保持するため温かく、柔らかな繊維です
その一方で麻は「速乾性」があり、水分を保持しないため、涼しく、パリッとした繊維
そのため麻は、コットンほどの柔らかさはありません
シワになりやすい麻は、洗濯機が普及した現在では扱いにくい素材になってしまいました
さらには安価で扱いやすい化繊もあり、麻の需要が減て、生産者も減っています
とはいえ高級品として売れていることからも、その良さが見直されてはいます
糸作りのワークショップ
東北を中心に、日本全国で麻の繊維から糸や布を織るワークショップが開かれています
これらの地域はカラムシの産地でもあるので、博物館や資料館もあります
●「天童市西沼田遺跡公園」は山形県にあります
カラムシを使ったアンギン編みや機織り体験を行っています
そのほかにも、バスケット作り、勾玉づくり、数珠玉クラフトができます
●「青苧復活夢見隊」も山形県で主催している団体です
青苧を畑で栽培して糸を作ったり、青苧の料理を食べる体験ができます
●「からむし工芸博物館」は福島県の昭和村にある施設
織姫交流会という体験ワークショップが行われています
会津地方では今もカラムシを栽培して機織りをしている人がいます
とはいえ伝統工芸の技術を知る人たちが高齢化し、減ってしまっているのが現状だそうです
●「弥生織りの会」は滋賀県で活動している団体
弥生時代の食と織りの文化を紹介し、体験学習などが行われています
糸紡ぎと機織り
糸紡ぎとは、繊維をねじることで細い糸にしていくことです
コマのようにクルクル回して繊維をねじり、糸にしていく道具が「スピンドル」です
工業化以前のアメリカでは家庭の主婦が糸を紡いでいました。糸紡ぎは、小さく軽い道具で、空き時間にできる単純作業です。
できた糸を「織る」と布になり、「編む」とニットやロープになります
機織りは、やり方を知ると非常にシンプル。額縁のような四角い「枠」だけでも布が織れ、自作もできそうなほど単純な作りです。現在でも、シンプルな木枠の機織り機は市販されています。
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