天然酵母パンを作るための酵母菌は、身近な食材から得ることができます
なぜなら酵母菌は、植物などに付いている自然の微生物だからです
例えば、野菜、果物、花、ハーブなどの表面にも、天然酵母は付いています
そのため最初にできたパンも、偶然の産物でした
穀物の粉に水に溶いて放置したら自然と発酵し、そのまま焼いたものです
自然の酵母は偶然の産物なので、必ずしも発酵するとは限りません
そのため天然酵母パンを作るには、まず酵母菌を育てる必要があります
小麦だけで作る天然酵母パン

小麦の天然酵母は「粉」と「水」だけで作るシンプルな方法です
しっかりこねなくても膨らむというメリットがあります
天然酵母パンを作るには、小麦に水を加えて混ぜ、酵母菌を「育てる」ことからスタート
少しずつ粉と水を足していくと発酵し始めます
冷蔵庫の野菜室で保存しておけば、つぎ足しながら使えます
【天然酵母の作り方】
- 「強力粉(小さじ1:4g)」に「半量の水(2g)」を混ぜる
- ジップロックに入れて野菜室に入れる
- 3~4日したら同量の粉(6g)に半量の水(3g)を混ぜる
- 3~4日したら半量の粉(8g)に半量の水(4g)を混ぜる
- 3~5日したら半量の粉(14g)に半量の水(7g)を混ぜる
- 3~6日したら半量の粉(24g)と半量の水(12g)を混ぜる
- 3~7日したら半量の粉(42g)と半量の水(21g)を混ぜる
気泡が出てきたら酵母が発酵している状態です
その後は2週間おきに、半量の粉と水を混ぜればOK
放置すると酵母が不活性になるので、粉と水を継ぎ足して「育てる」ようにします
【パン生地の作り方】
無農薬栽培した小麦なら、石臼で挽いた全粒粉を水で溶いてパン生地にできます
小麦を挽いて粉にする場合には、電動ミルではなく「石臼」を使うのがポイント
酵母菌は熱に弱く、40℃以上になると死滅してしまうからです
電動ミルは熱を発しますが、石臼なら酵母菌が生き残ります
翌日に食べる分の粉だけ挽いておけば小麦胚芽の周りにある油分の酸化も押さえられます
挽きたての粉に塩素分のない水を混ぜ、練ってから一晩おきます
翌日には自然発酵して生地が膨らみます

麦の栽培に適しているのは、水はけのよい土です。なぜなら麦類は加湿を嫌い、どちらかというと乾燥を好むからです。大麦は小麦よりも肥沃な土を好みますが、ライ麦や燕麦は、痩せた土でもよく育ちます。寒さに強いのは、ライ麦、小麦、大麦、燕麦、の順です。低温によって穂が枝分かれするため、秋に種まきし、冬に麦踏みすることで収量を増やします。
天然酵母パンの酵母菌つくり

天然酵母パンの酵母菌を自家製しやすいのが「果物」
なぜなら糖分が多い果物は、発酵しやすいからです
慣れたらハーブなど使うと香り豊かな天然酵母が作れます
天然酵母は、イチゴ、ブドウ、ミカンといった多くの果物に付いています
ハーブ、梅、トマト、ヨーグルト、玄米、様々な食材から得ることもできます
そして天然酵母を作る基本は同じです
自宅の環境によっても酵母菌の種類や量には違いがあります
例えば日頃から糠漬けなどの発酵食品を作っている場所には、酵母菌も豊富です
使う材料によっても酵母菌の種類が違います
いろいろな素材を試して、自分に合った酵母菌を見つけるのも楽しみのひとつ
果物やハーブからも酵母菌が得られます
【酵母作りの注意点】
酵母作りの基本はガラス瓶に材料と水を入れるだけ
シンプルですが、材料選び、消毒には注意が必要です
酵母菌は生きている微生物なので「育てる」感覚が大事です
●無農薬の素材を使う
なるべく洗わなくて済むよう無農薬の素材が適しています
酵母菌は植物の「表面」についているので、洗うと流れ落ちてしまうからです
皮をむいた果物でも酵母は作れますが、少し時間がかかります
早く酵母が得られやすいのは、旬の時期、採りたての素材です
●使う道具類は十分に消毒する
天然酵母つくりに使うのはガラス瓶だけですが、消毒が肝心
雑菌が付いていると、酵母菌が減って味も悪くなるからです
ですから熱湯消毒できる耐熱ガラスの瓶が適しています
しっかり密閉できる蓋がついていることも大事
とにかく雑菌が混じらないようにすることが酵母つくりのポイントです
【酵母つくりの工程】
天然酵母の作り方は、材料に水を加えるだけ
あとは「温度管理」をして、酵母菌を大事に育てていきます
1.道具類の消毒
しっかり密閉できる、耐熱ガラスの瓶を用意
ガラス瓶は、よく洗って熱湯消毒し、乾燥させておきます
蓋、パッキン、金具も取り外して、しっかり消毒するのが大事です
2.材料を切って瓶に入れる
使う素材は洗わず、皮ごと、瓶に入る大きさに切ります
小さなミニトマトやイチゴなら丸ごとでOK
3.水を加える
瓶の1/3~1/2くらいまで素材を詰めたら「水」を瓶の8~9分目くらいまで注ぎます
浄水器を通した水道水を使います
アルカリイオン水を使うと発酵しません
4.蓋を閉めて温かい場所に置く
しっかり蓋を閉めて「25℃」くらいの場所に置いておきます
温度を25℃前後に保つには、瓶を発泡スチロールの箱などに入れます
夏は保冷剤、冬はお湯を入れたカップを入れておけばOK
温度が高すぎると酵母菌が死んでしまい、温度が低すぎても発酵しません
5.蓋を開けて空気を入れる
一日おいたら蓋を開けて空気を入れ、かき混ぜます
酵母菌は生きている微生物なので、酸素も必要です
30℃以上の温度で24時間ずっと密閉状態にすると、酵母菌は死んでしまいます
二日目くらいになると表面にプツプツ小さな泡が出てきます
蓋を開けてスプーンでかき混ぜ、蓋をして瓶を振ります
少しおいてから蓋を開けて空気を入れ、蓋を閉めます
6.酵母菌を育てる
毎日ふたを開けてかき混ぜ、空気を入れてから蓋を閉めます
繰り返していくうちに発酵が進んで泡が増え、水が濁ってきます
発酵が進まない時には、砂糖を小さじ1杯くらい入れて様子を見ます
7.完成した天然酵母は冷蔵庫で保管
天然酵母ができたら冷蔵庫で保管
そのまま発酵し続けると酸っぱくなるからです
十分に発酵すると、蓋を開けたときにポンと音がします
炭酸のような泡が出て、ジュースのような色に変わります
ほんのりアルコールの香りと味がしていたら完成
使った果物は瓶に入れたまま保存してもOK
取り出してケーキの材料などに使えます
【酵母つくりに使える材料】
あらゆる素材から酵母を得ることができます
なぜなら植物には自然と酵母菌が付いているからです
●果実
完熟し、甘みのある果物ほどよく発酵します
「いちご」「レーズン」「ぶどう」「梅」「みかん」「バナナ」
これらが発酵しやすい果物です
あけびの果実で作るのが、あけびパン
容器に入れた果実が浸かるくらいの砂糖を加えて1週間くらいおくと酵母液が出てきます
この液で小麦粉を練って焼くと、あけびパンになります
●ハーブ
糖分が含まれていない「ハーブ」でも酵母を作ることは可能です
糖分が少ないだけに時間がかかりますが、香りの良い酵母ができます
ハーブ酵母は素朴なパンによく合います
25℃の適温だと5日目くらいには完成しますが、冬なら7日くらいかかります
発酵しにくい時はメープルシュガーなど糖分を小さじ1杯くらい加えて様子を見ます
「タイム」「オレガノ」「セージ」「ローズマリー」
茎が固いハーブなら発酵液に漬けたまま冷蔵庫で保存できます
「バジル」のような柔らかいハーブは溶けてどろどろになるので、濾して液だけ保存します
取り出したハーブは、刻んでパン生地に練り込んでもOK
乾燥させて塩に混ぜるとハーブソルトにもできます
●野菜
完熟した真っ赤なトマトもよく発酵します
ミニトマトのほうが発酵しやすく、丸ごと瓶に入れられます
トマトの皮が割れてきたら発酵が進んでいる目安です
トマトは瓶の底に沈みますが、その下に溜まっているのが酵母
よく混ぜてから元種を作ります
●穀類
玄米から酵母を得るには、まず発芽させる必要があります
無農薬の玄米でないと発芽しません
発芽させるには、水に浸した布巾に包んで28~29℃の温度で数日おきます
清潔に保つため、ときどき流水で洗います
芽が1~2mm出てきたらフードプロセッサで砕きます
玄米100gに対し水1リットルと砂糖30gを加えます
混ぜてからガラス瓶に入れて発酵させます
●発酵飲料
「甘酒」「ヨーグルト」など既に発酵させてあるものは、すぐに酵母が得られます
甘酒は飲料として売られているものではなく、袋詰めされたものを使います
水を加えてかき混ぜるだけで早ければ2~3日で発酵します
ヨーグルトの場合なら、そのまま粉と塩を加えて元種を作ることもできます
プレーンヨーグルト(200g)に強力粉(50g)と塩(ひとつまみ)を加えて発酵させます
天然酵母パンの元種を作る

天然酵母パンを焼く時には、まず「元種」を作ってから使います
なぜなら天然酵母は発酵力が弱いので、発酵力を強くする必要があるからです
元種の材料は、酵母液+粉+塩
分量は、酵母液1:粉1に塩ひとつまみの割合です
毎日ふたを開けて空気を入れ、かき混ぜると3日くらいで出来上がります
元種を作る工程も、天然酵母を作る過程と同様
雑菌の繁殖を抑え、温度管理をして、酵母菌を育てていきます
粉を加えて発酵力を増し、塩で雑菌の繁殖を抑えます
材料は、3日間に分けて徐々に足していくのがコツ
【ガラス瓶に材料を入れる】
熱湯消毒したガラス瓶に「酵母液(100g)」「粉(100g)」「塩(ひとつまみ)」を投入
スプーンでかき混ぜ、しっかり蓋を閉めてから、25℃くらいの場所に置きます
一日に2~3回くらい混ぜないと、分離してしまうので注意!
混ぜた直後は弾力があり粘っています
【水と材料を足す】
24時間たったら、同量の水と粉を混ぜて蓋を閉めておきます
水または酵母液(50~100g)、粉(50~100g)、塩(ひとつまみ)
酵母液を使うほうが香りが良くなります
発酵が進むとガスが出てくるので、最低でも一日に1回は蓋を開けます
一日おくと、なめらかになり、表面が盛り上がってきます
【さらに材料を足す】
三日目にまた材料を加えて混ぜ、蓋を閉めておきます
水または酵母液(50~100g)、粉(50~100g)、塩(ひとつまみ)
発酵がピークになり、生地が盛り上がり、大きな泡が出てきます
仕込みから72時間で発酵が完了して元種が出来上がります
出来上がった元種は、ほのかにアルコールと酵母作りに使った素材の香りがします
生地は盛り上がりが落ち着いて、すりおろした山芋みたいな感じ
プツプツ小さな泡が出ている状態です
元種は冷蔵庫で保存できますが2週間が限度
時間が経つほど元気がなくなり味も落ちます
冷凍なら1カ月くらい保存できます
元種は使った分だけ粉と水を加えて25℃の場所に置くと再び発酵し始めます
それを使えるようになりますが、繰り返すと酸味が出ます
継ぎ足しで増やすのは2回が限度です
天然酵母パンの焼き方

生地の材料は、粉(250g)、塩(4g)、砂糖(4g)、元種(125g)、水(130~140g)
夏は発酵しやすいので、元種の量を少なめに(粉100:元種40)します
水の分量を減らして、卵(1/2個:30g)くらい加えるとパンが柔らかくなります
材料を混ぜる手順、生地の「こね方」によって仕上がりが変わります
水分の多い材料に粉類を加えたほうが、早く混ざります
早く材料が混ざると、こねる時間が少なくて済みます
そして、こねないほうがパリパリの表面になります
そのためハード系のパンを焼く場合には、手早く材料を混ぜ、あまり生地をこねません
皮がパリパリになって気泡ができやすくなるからです
1.粉類を混ぜる
ボウルに「粉(250g)」「塩(4g)」「砂糖(4g)」を入れて混ぜます
2.水を加えてこねる
粉類に「水(100~110g)」を加え、手でこねます
(ハード系のパンを焼くなら水に粉類を入れます)
生地が固いようなら水を加えて調整します
こねる水の温度は、冬(30~35℃)夏(10~15℃)春秋(20℃)が目安
3.しっかり生地をこねる

まな板などに粉を薄く振り、手にも粉を付けて開始
手前から奥へ生地を押しつけるようにして伸ばします
丸めて伸ばすを繰り返し、なめらかになるまで15分くらいかけて、しっかりこねます
生地を薄く広げてみて、破れずきれいに伸びるようになればOK
自家製酵母で発酵させる場合、しっかり生地をこねておかないとパンが固くなります
4.生地を発酵させる

生地を丸めてボウルに入れ、ラップをして発酵させます
発酵時間は室温によって変わります
例えば室温が高い夏なら早く発酵しますが、冬は時間がかかります
そのため室温が低い季節には、湯煎で温めると早く発酵します
●発酵時間の目安
季節 | 気温 | 発酵時間 |
夏 | 27~28℃ | 3~4時間 |
春秋 | 25~27℃ | 5~6時間 |
冬 | 24~25℃ | 6~7時間 |
パン生地の温度を頻繁に測ることで失敗を防げます
デジタル表示の温度計があると便利です

5.生地を切り分ける
生地を切り分け、軽く丸め、濡れ布巾をかけて休ませます
自家製酵母を使う場合にはガス抜きをしません
発酵が不安定なためガスを抜いてしまうと膨らまなくなってしまうからです
6.生地の形を整える
切り分けた生地を、作りたいパンの形に整えます
バゲットなど水分が多いパン、具材を多く入れるパンを作る場合
冷蔵庫に30~60分くらい入れて冷やすと、成形しやすくなります
形を整える時、中にアーモンドなどを入れてもOKです
7.二次発酵させる
生地の形を整えたら、天板に乗せ、28~29℃で1~1.5時間くらい二次発酵
形を整えた生地が膨らんできます
この時に、オーブンは200℃に温めて準備しておきます
8.オーブンで焼く
パンを焼く前に、お湯の霧吹きでオーブンの内側を湿らせておきます
こうすると蒸気でふっくら焼きあがります
生地を並べた天板を予熱してあるオーブンに入れます
13分くらい焼いたら取り出して冷まします
ハード系の天然酵母パンを焼く時には、オーブンの内側に霧吹きしてからスイッチを切ります
7分くらい置き、オーブン内に蒸気を充満させることで裂け目が開くからです
その後でスイッチを入れて焼き上げると、形よく焼けます
天然酵母は材料の香りが残るため、風味のあるパンが焼けます
ハーブ酵母なら、ピクルスを付ける時に加えると風味が出て保存性も高まります
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